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1. 標準化と特許をめぐる係争
近年,特許を含む知的財産権が企業の基本戦略として意識されるに従い,標準化と特許に関する係争が見られるようになりました.最近の事例をあげて見ます.
1.1 Rambus社とInfineon社の係争
2001年5月の始めに,米国のヴァージニア州地方裁判所で,Rambus社とInfineon社の特許係争の判決がありました.この争いの経緯は,Rambus社がInfineon社に対し,特許使用のローヤルティの支払いを要求して訴訟し,これに対してInfineon社はRambus社がコンピュータのメモリーチップの標準を決めているJEDEC
(Joint Electronic Devices Engineering Council)に関連特許を保有していることを適切に明らかにしなかったとして逆訴訟したものです.判決はRambus社の敗訴でした.Rambus社が直ちに控訴したため,最終的な結果がどうなるかは分かりませんが,標準に絡む特許の保有を適切に公開しなかったため,裁判に敗訴することもあるという事例です.
1.2 DELL社のVLバス規格
米国のDELL社はVESA(Video Electronics Standard Association)の標準化委員会で,VLバスの規格策定が行われた際,出席した委員は関連特許を保有していない旨宣言しました.1992年に規格が決定された後,DELL社は「VLバス規格は我々の特許(1991年成立)を侵害している」と発表し,これを受けてFTC(Federal
Trade Commission)はDELL社がFTC法に違反するとして訴追しました.その後,DELL社はFTCの同意審決を受け入れ,1995年11月に調停が成立しました.標準化に係る自社特許の把握は重要であるという事例です.なお,FTCの同意審決の中でいわれている「標準化活動に携わる企業は,自社の所有する特許のポートフォリオをサーチする義務がある」という趣旨について,「自社特許のサーチ義務」に危惧感を持ったANSIはFTCと会合を持ち,多数の特許を持つ会社は自社の特許を正しく把握することも,それを完全にサーチすることも難しいということに関し,FTCの理解を得たとしています.
1.3 SC 17の非接触・近接型ICカード
SC 17の非接触・近接型ICカードでも特許の問題がありました.自社の仕様が国際規格に採用されないなら,この規格に必須である自社特許をライセンスしないとして大きな問題になりました.幸い,この仕様も国際規格に含めることで解決の方向となりました.
このように係争が顕在化してきていますが,標準化活動に係る者としては,その解決への要望をますます強くしています.
2. 標準化と特許権に関する日本の寄書
標準化と特許権に関しては,完全な解決策が無いのが頭の痛いことですが,日本はJTC 1のソウル大会(1999年11月)に前記1.3の問題について特許権に関する寄書を提出し,以下のような決議となりました.
・日本の提案をITTFに送り,特許の問題はISO/IECで対応する問題であるから,ISO/IECでより効果的な対応方針の検討を依頼する.
・JTC 1はそのメンバ(NB,SC,WG等)に現在のISO/IECの特許ポリシーとその精神をJTC 1傘下の活動への参加者全てに徹底する.
残念ながら,その後ITTFからは何の回答もありませんし,ISO/IECでも特許ポリシーに絡む動きはありません.
3. ISO/IECの特許規定
JTC 1は独自のDirectivesをもって活動していますが,特許に関してはISO/IECの共通特許規定に従うことになっています.最近,ISO/IEC
Directives が改版され,これまではISO/IEC Directives Part 2 (Amendment 1: 1995-05-31)の
Annex A (Reference to patent rights)にあった特許規定は,新ISO/IEC Directives
Part 1の2.14項とPart 2のAnnex Hと分かれて記載され,特許の定義など,内容の一部変更もあります.以下に概要を示しますが,関係者の皆さんには新Directivesを是非一読されることを要望します.
ISO/IEC Directives Part 1, 2.14項
1) 特許権(特許,実用新案,発明に基づく法律で定められた権利,及びこれらの申請で公開されたものを含む)でカバーされた事項を使用している国際標準を開発する場合は,以下のルールとAnnex
Hによる.
2) 特許権使用を含む条件で国際規格を作成する場合の手続き
a) 国際規格の提案者は,既知の特許権に関しTC/SCに注意を喚起する.規格作成にあたる者は規格開発の全ての段階で知り得た特許権について,TC/SCに注意を喚起する.
b) 提案者は特許権の所有者に対し,その権利の世界的ライセンスについて,妥当かつ非差別的な条件で,世界中の申込者との交渉に応ずるとの声明を求める.声明が得られない場合は,その特許に該当する事項を国際規格に含めてはならない.
c) 特許権者の声明が出されない場合は,理事会の承認無しには国際規格は発行されない.
3) 国際規格の発行後,規格に該当する特許のライセンスが,妥当かつ非差別的な条件が許可されないことが明らかになった場合は,その規格を関連するTC/SCに差し戻す.
ISO/IEC Directives Part 2 Annex H
・ H.1 コメント用原紙に,「コメントと共に,知っている関連特許権を連絡し,裏付け資料を提出する」旨の文章を全てのドラフトの表紙に載せる.
・ H.2 国際規格作成中に特許権の存在が確認されなかった場合は,発行国際規格に,「国際規格の一部が特許の対象の可能性がある.ISO/IECは特許の確認について責任を持たない」と注意書きを添える.
・ H.3 特許権の存在が確認された国際規格には,まえがきに「特許の使用に該当するかもしれないとの注意書きと,特許権者の名前と住所,ISOとIECは特許権については責任をもたない」との注意書きを載せる.
4. JISにおける特許取扱いの方針
「21世紀における標準化課題特別委員会」の報告書の「JISの知的財産権に係わる取扱い方針の見直し」の中で,「最近ではITUにおいて採用された知的財産権の取扱い(特許声明書の様式定型化等)が,ISO/IECの現行の取扱いより一歩進んで,より現実に即したものになっている.したがって,これを参考に,JISにおける知的財産の取扱い方針を見直し,またISO/IECにも提案していく必要がある」としています.このように,JISでも特許の取扱いへの関心が高くなってきました.
5.ITUの特許声明書
ITUではこれまで,各社各様で特許声明書を提出していましたが,これを定型化しました.ITUには特許ポリシーを適用するためのガイドラインがありますが,このガイドラインに特許声明書が入っています.この声明書には以下の二つがあります.
(1) General Patent Statement and Licensing Declaration
標準化に参加する各社は,自社特許を含む自社の寄書が採用された場合,無償または妥当で非差別的な条件でライセンスするという特許声明を提出するためのものです.提出は任意であり,強制ではありません.標準案毎の特許声明の提出など,これまでの手続きに追加的な手順です.これがあれば,標準作成作業を実施している各委員会の議長等に安心感を与えられます.ただし,この声明書を提出した企業は全世界で20社位であり,有効に機能しているとはいえない状況です.
(2) Patent Statement and Licensing Declaration
承認を予定する標準案に自社の特許権が関係している場合に,その情報を事務局に提出するための特許声明です.特許権者には3つの選択肢があります.
a) 無償でのライセンス
b) 妥当で非差別的な条件でライセンス
c) a)又はb)の条件でのライセンスの拒否.この場合,特許権者はその特許と標準案の関係を具体的に説明する義務があります.また,その標準案はキャンセルされます.
a)とb)の場合にreciprocityの条件があります.特許ポリシーに沿って,無償または非差別的な使用許諾を宣言した企業が,使用許諾をしない企業に対抗できるようにするために設けたものです.
以上のように,ITUの特許規定は,ISO/IECに比べより進んでおり,現実に即したものとなっています.個人的には,標準化団体の特許規定が団体毎に異なるのは望ましくなく,統一されることを望みます.ITUの規定はそのベースとなりうるものと思います.
6.おわりに
私は(財)知的財産研究所の平成11年度の「標準化と知的財産権に関する調査研究」に参加しましたが,この報告書のまとめを引用すると,「本来,技術標準は公共財的存在であり,知的財産権は私的財産権であるから,両者の対立を解決することは容易ではない.しかし,関係者はその解決に向けてさまざまな努力を重ねてきた.・・・・」とありますが,ITUでは現実的な解決策を採用しました.ISO/IECでも,ISO/IEC,
ITUの共同開発による規格に関する共通特許声明書の受け入れに関する投票を契機に,ISO/IECの特許規定の見直し検討が開始されることを期待したいものです.
参考資料
・ ISO/IEC Directives Part 2 (Amendment 1 1995-05-31) Annex
A
・ 平成11年度 標準化と知的財産権に関する調査研究報告書(平成12年3月)
(社)日本機械工業連合会,財)知的財産研究所
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