解説:電子書籍フォーマットEPUBのデジュール標準化

NEWSLETTER No.97 2013年3月号

ISO/IEC JTC1/SC34/AHG4(EPUB)共同コンビーナ
IDPF EPUB WG国際化サブグループリーダ
IDPF Advanced/Hybrid Layouts WG共同議長 村田 真

1. はじめに

EPUBは,Web技術に基づく電子書籍フォーマットであり,事実上の標準として世界中で用いられている.日本国内でも,Koboでの採用をきっかけとして一気に注目されるようになり,Amazon Kindle用の電子書籍を作成する手段としても用いられるようになった.本稿では,このEPUBにまつわる多くの話題のうち,デジュール標準化を取り上げる.EPUBの概要については,他の資料(たとえば[1,2, 3])を参照されたい.

EPUBは,もともとInternational Digital Publishing Forum(IDPF) という業界団体によって制定されたフォーラム標準であり,現在もIDPFにおいて拡張が続けられている.一方で,義務教育や図書館での採用を考慮して,デジュール標準にもしておきたいという意見は強い.IDPFとしても,EPUBを世界中で推進するために,デジュール標準化は歓迎している.

EPUBをどのようにしてデジュール標準化するかを,ISO/IEC JTC 1/SC 34/AHG 4 (EPUB)では2010年9月から検討してきた.検討作業には,IDPF及び他のデジュール標準委員会(とくにISO TC46及びIEC TC100)も加わった.筆者は,このAHG4の共同コンビーナとして関係者間の意見調整を行い,最後はコンビーナ提案によって合意をまとめた.この合意に基づいて,2013年1月から実際にEPUBのデジュール標準化が動き始めたところである.

2. デジュール標準化の方法についての合意

AHG4(EPUB)で得られた合意は,つぎの三点からなり,SC 34の総会でも承認されている[4].

  • Technical Specificationとして制定する.
  • JTC 1/SC 34が運営するJoint Working Groupに割り当てる.
  • 韓国が迅速化手続きによってJTC 1に提出する.

本節では,この三点を簡単に説明する.

2.1 Technical Specification

EPUBの最新バージョンであるEPUB 3は,まだ確定していない仕様を数多く参照している.とくに,日本語縦書きを実現するために必要なCSS Writing Modes,CSS Text,CSS Text Decorationは,まだW3CのWorking Draftでしかなく,安定した仕様ではない.EPUB 3は,リスクを承知の上で,ある程度の対策を施して,これらの仕様を採用している.W3Cの勧告候補でしかないものも数多くEPUB 3は参照している.その筆頭がHTML 5である.これからHTML 5の構文が変わる可能性はゼロではない.

EPUB 3が仕様として安定したものと言い難い以上,現時点で国際規格とするのには無理がある.そこで考えられたのがTechnical Specificationとすることである.現時点ではまだ国際規格に出来ないものをいったんTechnical Specificationにすることは,ISO/IEC Directives Part 1の3.1で認められている.

Technical Specificationとして早期に発行することによって,デジュール標準側には教育や図書館のためのEPUB利用についての標準化が行いやすくなり,IDPFには世界展開が行いやすくなるという利点がある.

2.2 Joint Working Group

JTC 1/SC 34は,日本が幹事国,韓国が議長を務めており,文書の記述と処理の言語を担当する.XMLの前身であるSGMLは,このSC 34によって策定された.オフィス文書のフォーマットであるOOOXML(ISO/IEC 29500)とODF(ISO/IEC 26300),XML文書のためのスキーマ言語であるRELAX NG(ISO/IEC 19757-2)も,SC 34が担当している.EPUBは,これらの技術と深い関係があることから,明らかにSC 34の担当範囲にある.

しかし,EPUBを担当したい委員会はSC 34だけではない.図書館に関連する委員会であるISO TC46,日本の電子書籍フォーマット(XMDFとBBeB)を標準化したIEC TC100も強い興味を示している.IDPFとしては,一つの委員会を選んで他を排除するという選択はできれば取りたくないところである.

議論の結果,IEC/TC 100/TA 10,ISO/TC 46/SC 4及びSC 34からなるJoint Working Groupを設立し,その運営はSC 34が担当することに決まった.Joint Working Groupのチャータと議長(韓国のSam OhとYong-Sang Cho)については,SC 34とIEC/TC 100/TA 10ではすでに承認されており,ISO/TC 46/SC 4の承認とJTC 1の承認を待っている段階である.

Joint Working Groupには運営が難しくなるという弊害もあるが,それを克服することは今後の課題である.

2.3 韓国による迅速化手続き

韓国は,義務教育へのEPUBの採用にきわめて熱心であり,国を挙げて取り組んでいる.EPUBのデジュール標準化は,韓国にとってその一環であり,すでに韓国の国家規格として承認されている.

EPUB 3のデジュール化は,韓国が迅速化手続きによって開始する.具体的には,韓国がDraft Technical SpecificationとしてJTC 1に提出し,JTC 1での三か月投票にかける.成立後は,前述したJoint Working Groupがメンテナンスを担当する.

迅速化手続きをとることによって,早期に完了することが期待できる.実際,2013年の後半にはTechnical Specificationとして成立することを予定している.

早期成立は,図書館や教育へのEPUB利用を検討しているデジュール標準側にとっても都合がよい.IDPFには,韓国が手続きを代行してくれるので事務負担が軽くなるというメリットもある.

迅速化手続きでは,投票はJTC 1でのそれに一本化される.一方,通常の手続きでJoint Working GroupがEPUBを標準化する場合には,JTC 1/SC 34,IEC TC100,ISO TC46の三つの委員会がそれぞれ別の投票を行わなければならず,さらにもし委員会ごとに別の結果(とくにコメント処置)が出たときには厄介である.したがって,投票の一本化はIDPFにとってきわめて好ましい.

3. 今後

3.1 日本コメントの作成

SC 34専門委員会を中心に,ISO TC46対応専門委員会及びIEC TC100/TA10対応専門委員会のメンバが加わって,EPUBのDraft Technical Specification投票のときのコメントを作成する予定である.大変更はこのタイミングでは不可能だが,ユーザからのフィードバックに基づく変更はあり得る.

3.2 各国コメントの処置

日本を含む各国は,JTC 1投票のときにコメントを提出するものと予想される.IDPF自身も利用者からのフィードバックを検討しており,合意された改善点は韓国がコメントの一部として提出する予定である. 各国コメントはまずIDPFによって検討された上で,Ballot Resolution Meetingで審議される.その結果は,Technical Specificationに反映されるが,IDPF側でもEPUB 3のマイナーな改訂を行う予定である.なお,Ballot Resolution Meetingの議長は,SC 34の幹事国である日本が指名する.

3.3 成立後のメンテナンス

Technical Specificationとして成立するとメンテナンスが始まる.拡張は原則としてIDPFが行うが,欠陥報告への対処はJWGがIDPFと協力して行う.特定用途向けのプロファイルもデジュール標準側で作成される可能性がある.JWGが三年以内に行うレビューでは,国際規格への格上げも検討される.

3.4 教育及び図書館への応用

図書館や教育へのEPUBの応用は,Joint Working Groupでも検討する可能性がある.教育へのEPUBの応用は,JTC 1/SC 36が強い関心を抱いているので,SC 36とも協力していく必要がある.

4. おわりに

日本は,つい最近まで国内既存フォーマットに固執していた[5].一方,韓国は,スマート教育の一環として国を挙げてEPUBに取り組んできた.その結果,韓国は,迅速化手続きでの提案国かつJoint Working Groupのコンビーナとなった. 最近,日本電子出版協会(JEPA)及びPublicKeyブログはEPUB国際標準化支援のための募金によって筆者の活動を支援した.今後は,教育や図書館への応用,雑誌やマンガへの対応も含め,国としてのより積極的な対応が望まれる.

参考文献

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